その他のコンテンツ

ティーチャーズ・カフェ

なぜJALを救うのか − 政府がなすべきこと

現代経済デザイン学科 須田昌弥
l010経営不振に陥った日本航空(JAL)の「救済」をめぐる動きが慌ただしくなってきました。このまま放置すると破綻しかねないというのですが、現時点では国土交通相が「破綻はさせない」「航空2社体制を維持する」と言明したことにも現れている通り、JALを何らかの形で救済すべきという意見が主流です。

ところで、なぜJALという一民間企業を政府(ひいてはわれわれ国民)が救済しなければならないのでしょうか?人によりいろいろな意見はありますが、その根拠を大きくまとめると3つになります。

1つ目の要因として、JALの破綻が日本の航空市場の「独占」をもたらす、という見解があります。上述の国土交通相の発言にもそれは現れています。独占が経済厚生上悪影響をもたらすことは事実ですが、それ以前の問題を検討しておくべきでしょう。破綻が本当に「独占」につながるか、という問題です。少なくとも国際線では外国の航空会社との競争がありますし、国内線でも複数の航空会社があります。それらの多くは小規模で競争力は弱いですが、JALが撤退するならば(航空機や乗員などを受け入れて)規模を拡大できるかもしれません。既存企業だけではなく、思いも寄らぬような企業が新規参入してくるかもしれません。それらの企業を受け入れることができれば、仮に一時的に「独占」となったとしても、そのことが即運賃値上げなどにはつながらないはずで、政府の介入を容認するための大きな要因にはなりません。

次に、今日の日本において航空輸送サービスは経済社会の基盤となる必要不可欠のものであるという考え方があります。JALの破綻によって運航停止などが生ずると、多くの利用者に影響が生じます。また、航空サービスは観光業など他の産業、ひいては地域経済にも大きな便益をもたらすため、飛行機を利用しない人にも破綻は被害をもたらします。

しかし、これは航空サービス全体についての議論であって、そのサービスを供給するのがJALでなければならないということではありません。ここで3つ目の理由が出てきます。今から20年くらい前まで、JALは政府が株式の一定割合をもつ特殊会社で、その後「完全民営化」された経緯があります。そして民営化されてからも自他共に「日本を代表する航空会社」(ナショナル・フラッグ・キャリアといいます)を任じてきました。そのような企業が破綻したり、外国企業の傘下に入ったりすることは避けたいというのです。これは一見「経済学的でない」理由に見えます。ただしわれわれがそのためのコストを負担してもよいと考えるならば、経済学者としてはそれを止める理由はありません。ただ皆さんには、JALがそのような企業だという認識はあまりないでしょうし、そのために余計な負担(運賃値上げ・増税など)を強いられるくらいならば・・・という意見もあるでしょう。そのような意見が多いならば、利用者・納税者に負担を求めることは困難でしょう。

l011ところでこれらの理由は、実はJALの経営を改善するための制約となっている要因でもあるのです。不採算の赤字路線でも、それを廃止しようとすれば必ず各地域から存続要求が出てきます。国際線の場合には、ある国と日本の外交関係によって路線設定が制約される場合もあります。これらに応えることがJALに求められる一方、それゆえに採算を悪化させる結果になっています。JALを存続させるためには、まずこの悪循環を食い止める枠組みが必要で、それを作るのがまさに政府(国土交通省)の役割といえます。

しかし実際には、議論はそれ以外の論点(客室乗務員の給与水準など)に向きがちです。それらの点もJALの経営改善にとって重要でしょうが、それは経営陣や金融機関などの方がよりよく解決できるはずで、「政府」が関与することを正当化するものではありません。JALに限らず、「企業と政府の関係」を考える際には、政府の関与がどこまで必要かを見極めることが重要なのです。

ここまで私が述べてきたことに、反論したいと考える人も多いでしょう。それはむしろ歓迎したいことです。ただ最後に述べておきたいことは、ここで私が述べてきた見解は経済学の裏付けのある議論だということです。ここではその詳細は述べませんでしたが、経済学の論理と、経済学を用いて考えることの有効性を感じ取っていただければ幸いです。