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雇用保護法制は雇用に悪影響をおよぼす?

経済学科 白井邦彦
l013先ごろ政府が発表した日本の貧困率15.7%の数値に象徴されるように、最近は貧困、ワーキングプアということが無視できない政策課題となっている。そうした問題の大きな原因のひとつは、ここ数年雇用の不安定化が急速に進んだことであろう。こうした雇用の不安定化に対しては「雇用保護法制(労働者の解雇を規制したり、派遣や期限付き雇用などの非正規雇用の活用に制限を加える諸立法や判例のこと)の強化」が主張されることが多い。しかし、こうした主張に対しては経済学的には次のような反論がよく加えられる。

「このような法制度は労働者の雇用を守るために作られ、一見すると実際そうであるようにみえる。しかしそうした規制の存在は使用者の採用意欲を阻害し、結局は雇用状況を悪化させる。またこうした規制の存在は現に安定した雇用を享受している中高年男性の既得権を守る一方、若年者・女性等総じて労働市場において不利な立場に置かれがちな属性の労働者の雇用へのアクセスを制約し、労働市場の二重性を形成し固定する。そうした規制を緩めることは、一見すると労働者の雇用を不安定化させるようにも思える。しかしそれによってデメリットを被るのは規制により既得権を有する、一部の中高年男性正社員のみであり、使用者の採用意欲が活発化することにより、若年者・女性など多くの労働者はむしろ雇用へのアクセスのチャンスが広がり、雇用状況は改善する。」

しかし冷静に考えると以上のような主張には次のような反論を加えることも可能であろう。
「雇用保護法制の規制の存在が雇用に悪影響を及ぼすという主張の根拠のひとつは、そうした規制の存在が使用者の採用意欲を減退させるということであろう。しかしこうした規制により解雇も制約されるのだから、雇用への影響は中立的ではないか。また景気循環過程を考慮すれば、不況期にはもともと使用者の採用意欲が低いのだから、雇用を守る側面が強く機能し、逆に好況期にはもともと使用者はあまり労働者を解雇しようとしないのだから、採用意欲を減退させる側面が強く機能し、中長期的には雇用への影響は中立的ではないか。また解雇を規制すると使用者の採用意欲が減退するかどうかも疑問である。確かに解雇が困難だと使用者はいったんは採用を手控えるかもしれない。しかしそうすると需給関係より採用条件は低下し、それにより使用者の採用意欲はもとにもどるかもしれない。逆に解雇をしやすくするといったんは使用者の採用意欲は刺激されるかもしれない。しかしその結果採用条件は高まり、その結果いったん刺激された使用者の採用意欲は再び減退するのかもしれない。さらに規制を緩和すると、従来であれば解雇されないような経験と能力を持った労働者も失業者として労働市場に登場する可能性も高まる。そうであるならば、規制緩和は求職者側の競争も今以上に激化し、職業経験や能力を有する求職者との従来以上の競争を強いられる若年層、女性等はかえって不利な立場に追い込まれる危険もある。」

こうした議論のうちどちらが、より実態を反映するものなのだろうか。学生の皆さんにはすぐ先の「就職、職場生活」という現実を考慮して、判断してほしい。ちなみに各種の実証研究によれば「雇用保護法制の雇用への影響は”あいまい”」というのが現時点の到達点である。