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自殺者、3万人時代をどう生きるか −いのちの電話の試み−

経済学部 大島 力
l016この経済不況の中で、年間の自殺者が三万人を超えたままになっている。その理由は従来の若年層の自殺率に加えて、働き盛りの50代、60代の自殺者の増加傾向があると新聞等で報道されている。このような事態に我々はどう関わっていったらよいのであろうか。

もちろん、経済的問題をきっかけにして自殺を考える人々は、景気が回復していけばその比率は減少していくだろう。そのためにセイフティーネット等の施策が急がれ、その実効性が今問われている。しかし、問題はそれに尽きないことは明らかである。景気の動向に関わらず、自らの掛け替えない命を断たなければならないほどに精神的に追い詰められてしまう人々はあとを絶たない。

この問題といち早く取り組んできたのは、「いのちの電話」という自殺予防のための電話相談の活動である。いまでは全国に多くの相談センターが存在するが、40年程前には、ほとんど本格的な取り組みはなされていなかった。そのことに心を痛めていた一人のドイツ人の女性宣教師がいた。その名はルツ・ヘットカンプと言い、彼女は戦後の混乱期に同じ敗戦国であったドイツの教会から日本に派遣されていた。彼女のことが、12月11日付けの朝日新聞の夕刊に紹介されていた。大変に好意的な内容であり、彼女の志は今、まさに現代の日本においてもう一度新たに受け止められる必要があると感じた。

「いのちの電話」は、日本人の協力を得て1971年に始まった。最初は効果なく電話がかかってこなかったらどうしようかという心配もあったようである。しかし、その開始から現在まで24時間途切れなく電話の呼び出し音が鳴り続けている。少し後になって「いのちの電話」は「眠らぬダイヤル」と言われるようになった。このようなところに現代日本の精神状況の一端が現れている。そして、今この時も、全国で約7000人の相談員が交代でその悩みや訴えに対応している。

私のごく親しい友人もかつて「いのちの電話」の相談員をしていたことがある。その相談内容は多岐にわたるものであるが、電話の向う側にいる人の「こころの訴えと叫び」を的確に聞きとることは容易ではない。そのために、カウンセリング等の訓練をうけ、また、スーパーバイザーの継続的な指導も受ける。それでも「死にたい」という訴えが和らがないこともある。しかし、「死にたい」という声を、電話を介してであっても人に訴えるということは「自分は生きたい」(Cry for help)という魂の叫びでもある。このことが最も重要なことなのではないか。

l017ただ、問題は確かに現在の社会システムのなかで複雑になりつつある。最初に述べた新聞記事に、現在はドイツに帰国しているルツ・ヘットカンプさんのこのような言葉が記されていた。「日本では、生命保険で借金を返すために男たちが自殺するそうですね。中国の安い農産物に押され、農家が苦しんでいますね。いまの経済状況はどう響くでしょうか」。
彼女はなお、日本のことを思い、自らが呼びかけた「いのちの電話」の働きが有効であるように願っているのである。これに応えるのは、我々日本人であることは論を待たない。