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所得税の公平性 〜何をもって公平なのか?〜

現代経済デザイン学科 吉岡祐次
l036現在日本の税制改正では配偶者控除の所得制限などが議論されています。また、来年度の所得税より扶養控除の一部は廃止される予定です。これら所得控除の制限や廃止は確実に納税者の負担となります。“税の負担は公平であるべき”とすることに多くの人は賛成してくれると思いますが、日本の所得税は公平なのでしょうか。また、何を基準にして、公平や不公平といえるのでしょうか。これらの点についてこれから考えていきます。

経済学や財政学などにおいて、租税の公平性とは、望ましい租税が満たすべき基準であり、水平的公平性と垂直的公平性に分類されます。水平的公平性とは、同じような立場や状態にある人は同じように税を負担するべきとするものです。そして、垂直的公平性とは、異なる立場や状態にある人は相応に税を負担するべきとするものです。特に、後者に関しては、所得の多い人ほど多くの税を負担するべきとするのが一般的です。日本の所得税は(多くの諸外国と同様に)累進税率を適用して所得税を計算しています。このとき、所得税の負担に関して、各個人の間で水平的公平性と垂直的公平性が満たされます。このことを簡単な数値例で確認してみます。そこで、先に具体的な設定のもとで累進税率を説明して、後で所得税の公平性について考えます。

まず、所得税の累進税率を次のように設定してみます。課税所得の300万円以下の部分は税率10%、課税所得の300万円超で900万円以下の部分は税率20%、課税所得の900万円超は税率30%とします(話を簡単にするため現行制度上の税率表ではありません)。このように所得が高くなるとその高い所得の部分(区分)に対して高い税率が適用される税率構造を“超過”累進税率と呼んでいます(単純累進税率とは区別して下さい)。上記の税率構造を視覚的に表現すると掲載されている図のように表現できます。図の横軸は課税所得(=年間所得−所得控除)で、縦軸は所得税の税率(限界税率)とすると、超過累進税率は階段状のグラフにより示されます。そして、所得税額は、ある課税所得の水準より左側にある階段状のグラフの下方の面積で計算することができます。例えば、課税所得が400万円の場合には、300万円以下の部分は税率10%(0.1)を掛けて30万円を求め、300万円を超えて400万円までの100万円の部分には税率20%(0.2)を掛けて20万円を計算して、それらを合計した50万円が(課税所得400万円に対する)所得税額となります。

次に、所得税の公平性について考えます。今4人の個人がいるとして、所得がゼロの個人A、所得が500万円の個人B、所得が500万円の個人C、所得が1,000万円の個人Dとします。そして、所得控除が一切ないと仮定すると、各個人の所得税額は、個人Aは0円、個人Bは70万円、個人Cは70万円、個人Dは180万円と求めることができます(図を参照して各自で計算してみて下さい)。また、所得税額を所得額で割った各個人の税負担率(平均税率)を求めてみると、個人Aが0%、個人Bが14%、個人Cも14%、個人Dは18%となります(この割合も各自で計算してみて下さい)。このとき、所得が同じ個人間では税負担(率)が同じと言う意味で水平的な公平性が満たされています。また、所得が高くなると税負担(率)が重く(高く)なるという意味で垂直的な公平性も満たされています。したがって、超過累進税率を採用している日本の所得税は水平的にも垂直的にも個人間で税負担の公平性を満たしていると考えられます。

l037さて、日本の所得税は、“個人を計算の単位”として、税額を算定することが原則とされています。そして、個人単位を前提に超過累進税率を適用すると、上記の具体例のように、“個人間”で水平的にも垂直的にも税負担の公平性が満たされることになります。しかしながら、このことにより、次のような状況を想定すると、“世帯間”において税負担が不公平になることもあります。上記の設定に加えて、個人Aと個人Dが夫婦で、個人Bと個人Cが夫婦であるとしてみましょう。このとき、各世帯の合算所得は両方ともに1,000万円で、個人Bと個人Cの夫婦は合計で140万円の所得税(税負担率は14%)となります。これに対して、個人Aと個人Dの夫婦は合計で180万円の所得税(税負担率は18%)となります。このような税負担は公平と言えるでしょうか。合算所得が同じなのに所得税の合計が異なるのですから、金銭的な側面のみを考慮するならば、世帯間における税負担は不公平と言えるでしょう。このような不公平は、“個人単位”を前提に“超過累進税率”を適用して所得税を計算するために発生しうる問題です。このような問題を調整するために、日本では配偶者控除制度(諸外国では二分二乗方式などの方法)などを設けて対応しています。例えば、個人Dに配偶者控除として(かなり多めですが)100万円の所得控除を認めると、課税所得は900万円、所得税は150万円、税負担率は15%となるので、世帯間における税負担の不公平は緩和されます。当然、このような調整をすることは個人間の公平性を部分的に犠牲にするので、個人間の公平性と世帯間の公平性の間ではトレード・オフが起こります。したがって、日本の所得税は、個人間における税負担の公平性を追及すると同時に、世帯間における税負担の公平性にも配慮した構造になっていると考えられます。

l038ところで、上記の夫婦の例において、“金銭的な側面のみを考慮すれば”世帯間における税負担は不公平であると主張しました。しかしながら、上記の設定に加え、“金銭以外の側面を考慮すれば”世帯間でも税負担は公平と主張できる可能性があります。そのためには経済学的なある“発想”を必要としますが、それはどのような考え方でしょうか。答えを聞いてしまえば何てことはないものなので、自分たちで少し考えてみて下さい(大学の講義でも説明することがあるので、よかったら聴講して下さい)。