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“How old are you?”が通じない国がある!? —エイジヒーピング現象について—

現代経済デザイン学科 井上孝
l039朝の時間帯にテレビを民放のチャンネルに合わせていると、「本日の星占い」の類のコーナーをしばしま目にします。私は、こうしたコーナーを見るたびに「ああ、日本はなんて幸せな国なんだ」と実感します。なぜなら、こうしたコーナーが存在するということは、日本国民の誰もが、自分の年齢はもとより自分の星座すなわち生年月日を正確に知っているということに他ならないからです。「そんなこと当たり前じゃないか」と思われるかもしれません。しかし、驚くかもしれませんが、先進国は別として、自分の正確な年齢を知らない国民が相当数に上る国が世界の中にはまだまだたくさんあるのです。つまり、タイトルにある「“How old are you?”が通じない国がある」という意味は、この表現が英語だから通じないという意味ではなく、その国の現地語で「あなたは何歳ですか」と聞かれても正確に答えられない、という意味なのです。

下の図は、アフリカのある国(ここではA国とします)の人口ミラミッド(2002年)を示したものです。人口ピラミッドはよく知っているとは思いますが、ある国・地域の男女年齢別人口を左側に男子、右側に女子に配してグラフ化したものです。この図をみると、10歳代後半くらいから、男女ともグラフにのこぎりの歯のような凹凸が目立ってくることが分かります。最上部は80歳以上人口を一括して表示しているのでグラフが突き出ているのは当然だとしても、79歳以下の人口にこれほど凹凸が現れるのはどう見ても不自然です。ではA国の人口ピラミッドになぜこのような凹凸が現れるのでしょうか?

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上図の凹凸をよく観察すると、おおむね、まず末尾が0の年齢(20、30、・・・70歳)が最も突出していて、つづいて、末尾が5の年齢(25、35、・・・、75歳)、末尾が2か8の年齢(18、22、28、32、・・・78歳)の順に凸の程度が大きいことが分かります。私の専門である人口学では、このように特定の数値を末尾にもつ年齢において人口が多くなる現象をエイジヒーピング(age heaping)と呼んでいます。エイジヒーピング現象は、いわゆる「切りのよい」数値を末尾にもつ年齢に現れ、末尾が0と5の年齢の人口が突出して多くなる場合が最も一般的です。ただし、末尾が0と5の年齢の人口が本当に多いわけではなく、これはあくまで見かけ上に過ぎません。つまり、実際は、たとえば25歳をはさんだ±2歳前後くらいの人たちが、センサス(日本の国勢調査に相当する人口調査)時に「私は25歳です」と申告するためこうした現象が生じるのです。こうした間違った申告がなされるのは、多くの途上国で住民登録制度はおろか出生届制度が整っていないからに他なりません。出生届制度がなければ、親が自分の子どもの出生年月日を正確に書き留めておこうという意識が弱まり、結果として、親が自分の子どもたちに与える情報としては、たとえば、「おまえはあの火山が爆発した頃に生まれた」といったような、曖昧なものだけとなってしまうわけです。こうして、今なお多くの途上国において、多数の国民が自分の出生年月日を知らないまま生活をしている、すなわち、“How old are you?”が通じない状態が生じているのです。

ちなみに、A国において0、5以外の2、8を末尾とする年齢の人口が見かけ上多いのは、奇数よりは偶数の方が相対的に「切りのよい」数値という認識があるからだと思われます。つまり、たとえば、「自分は30歳より少し若いはずだ」と思った人の中で、(実際は27歳あるいは29歳でも)28歳と申告する人がかなり存在することを示唆します。また、A国において15歳以下のエイジヒーピング現象が弱まっているのは、年齢が若いほど出生から日が浅く親の記憶が薄らいでいないことも一因と考えられますが、同国における小学校の就学率の上昇に伴って、親が自分の子の出生年月を正確に記しておこうという習慣が備わってきたこと(そうでないと、いつ小学校に入学したらよいかわかならい)も要因と考えられます。
以上、人口学という学問分野のトピックの1つを紹介しましたが、人口学は世界や日本で生じている、あらゆる人口問題のメカニズムを解明しその解決策を探ろうとする分野であり、その対象は非常に広範に及びます。ここまでこの短文を読んでくださり、さらに人口学に興味を持たれた方は、ぜひ経済学部現代経済デザイン学科の門をたたいてください。